Interview : 木村雅彦氏 / GK Graphics

GKデザイングループは戦後復興期に創業者の榮久庵 憲司が東京藝術大学在籍中に立ち上げたデザイン集団です。以来、60年間、「美の民主化」「モノの民主化」というスローガンをもとに、オートバイから都市計画、ブランディングと多義にわたるデザイン活動を圧倒的なクオリティーで、そしてグローバルな規模でおこなっています。今回はGKデザイングループの中のグラフィックデザインの領域を中心の事業とされているGKグラフィックスの木村氏にインタビューをしました。


Interviewee : 木村 雅彦 / KIMURA, Masahiko

木村 雅彦氏大阪生まれ。京都精華大学デザイン科卒業、株式会社GKグラフィックス所属。主にタイポグラフィを中核とした、企業や自治体のブランド・コミュニケーションやサイン・システムのデザイン、商品開発に携わる傍らで、タイポグラフィを中心とした研究、教育を行っている。主な研究テーマは「ローマン体の成立」、「コミュニケーション・デザインにおける書体選択と制御」、「タイポグラフィを中核としたデザイン教育」。京都精華大学デザイン科客員教授、武蔵野美術大学基礎デザイン科非常勤講師、朗文堂新宿私塾講師。台湾中原大学国際デザインシンポジウム特別講師。中国西安西北大学芸術学院客員教授。タイポグラフィ学会副会長。


 

GKグラフィックスはどのような事業をされていますか。

卓上醤油差し
卓上醤油差し

GKグラフィックスはGKデザイングループという総合的なデザイン組織の1社です。GKという名前は、東京藝術大学の故小池岩太郎教授のゼミ生が1952年に作った会社である為に「Group of Koike」のイニシャルから名付けられました。発足当時は東京駅前広場のコンペからはじまり、ヤマハのオートバイやオーディオ、キッコーマンの卓上醤油瓶やなどのインダストリアルデザインを中心に活動していました。それから「Eveything Through Industrial Design」という考えのもと、徐々にデザインの対象を広げ、都市計画から、公共交通機関の車両、駅や空港のサイン計画、印刷機などの工業機器までを手がけるようになりました。GKグラフィックスは、コミュニケーションデザインを中心とした計画の構想や設計をおこなっています。具体的には商品のパッケージや、企業のブランディング、駅の案内システムであるサイン計画、インタフェイスのデザインといった領域に携わっています。

木村さんはどのようなお仕事をされていますか。

天道荘 総合デザイン計画
天道荘 総合デザイン計画

タイポグラフィを中核としたブランディングやサイン計画、商品開発をおこなっています。私はできるだけ計画の礎となる調査やコンセプトづくりから携わり、様々な専門家とともにすべての要素を、細部に至るまで作り込みをおこなうように心がけています。このようにデザインの構想段階から、名刺1枚の文字の0.05mmの文字間隔まで、1つ1つに神経が通っているようにすることで本当のデザインの力が発揮できると信じているからです。 

受注されたお仕事は外の会社に発注されることはあるのでしょうか。

いろんなケースがありますが、基本的にはグループ内で行うようにしています。例えば、昨年オープンした台北のラーメン店の場合は、経営者から直接、相談をいただいて、GK設計という都市や建築を行っているチームと共同ですすめました。様々な専門知識を持ち寄ってすすめたほうがデザインの可能性が広がりますし、先ほどお話ししたように、全体から細部まで一貫した強いブランドづくりが実現すると考えているからです。また他の案件ではGKインダストリアルデザインとGK設計との3社で、ヤマハリビングテックというシステムバスやキッチンを作っている会社のトータルブランディングを行っています。調査分析からコンセプトの構築、視覚要素の開発、システムバスなどのプロダクトデザインまで一貫して行うことで、他の組織ではできない質が提供できると考えています。 

社内ではどのようなチーム体制でお仕事をされていますか。
昔と比べてそのような『グループ力』を活かした仕事は増えていますか?

GKグループ
GKグループ

基本的には私を含めた2~3名程のチームで仕事を行っています。人数が多いと、しっかりとした人材教育ができませんし、チーム内の意思疎通や質を維持することが困難になると考えているからです。しかし近年、多様な専門家とのコラボレーションを試みたいという思いで、GKグループ内の様々なチームと連携して仕事を行うようにしており、10年ほど前と比べて、グループの力を生かした仕事が増えていると思っています。

 

 

お仕事の具体的な事例についてお聞かせください。

LED発車票の文字開発
LED発車票の文字開発

駅のホームなどで発車時間や行き先を表示するLED電光掲示板の書体設計を行った時のお話をします。電光掲示板の文字は、一般的なサインの文字に比べて解像度が低いため、既存の書体をそのまま使用すると読みにくくなってしまいます。そのため電光掲示板専用の書体を設計することになりました。 この時、書体設計の基礎となったのは、文字の可読性の研究でした。私たちが文字を読む時、漢字は輪郭で、平仮名は筆脈で、アルファベットは単語の上部で、主に認識しているようです。[「組織からの声の形成」アイデア 2004年] このような基本的な認識方法を論拠として、多くの関係者と目標値をつくり、専用書体の検討を重ねました。そして日本語には、リョービイマジクス株式会社(当時)のナウというゴシック書体を、同社の許可を得て、基礎に用いることにしました。それは漢字の大きさが、比較的に小ぶりに設計されていたので、狭い表示スペースの中でも文字を認識するための余白を確保できると考えたからです。とくに仮名文字は、自然な筆脈によってより可読性を高める為、スタッフと協力して全てを作り直しました。

また、電光掲示板のような解像度の低いディスプレイに文字を表示する場合、ギザギザに見える曲線を滑らかに見せる階調再現という技術があります。この処理は自動で行って多くの階調で表現することもできますが、遠くで見るとかえって読みにくくなってしまう文字もありました。そこで、実際の機器を用いて実験を行ってみると、3階調が最も合理的で可読性が高いことがわかり、基本的な設計指針が決まったのです。

さらに、文字を表示範囲いっぱいまで大きくしないことで可読性を維持する手法を用いました。一般的に、文字の縦横比を変形してでも文字を大きくすると読みやすくなるという考え方がありますが、強い変形は判別性や可読性を低下させてしまい逆効果です。もちろん情報としての品位を失ってしまいます。このような小さな試みを重ねることで、一見すると特徴的なデザインではないかも知れませんが、比較して見ると、明確に判別性や可読性が高まり、長期的な使用に耐えうる書体として完成させることができました。

 

クライアントとすすめる
デザインのお仕事について

デザインを発注するクライアント側にもデザインに関する知識が求められると思いますが、クライアント側のデザインに対するマインドはどのような状況ですか。

飛騨市 市章
飛騨市 市章

以前は、デザインを色かたちだけの問題として、あまり深く理解されていないクライアントが多かったように思います。ですから我々の先輩たちは「デザインとは何か」という啓蒙からスタートしなければならなかったと聞いています。しかし、ここ10年ほどで急速な情報の共有化が進み、デザインの概念やその効果を理解されている方が増えてきていると感じていますし、今後は増えていくように思います。だからこそ我々は、よりしっかりした知識や経験を重ねたプロ集団でなければならないと残れないと考えています。

 

木村さんのお仕事を拝見すると、圧倒的なディティールの調整によってデザインの価値を高めているように思います。そのディティールに対する努力は、デザインを発注するクライアント側にはどのように理解されていますか。

東京北社会保険病院 サイン計画
東京北社会保険病院 サイン計画

どのようなデザイン業務においても、目的に応じたディテールの制御はとても大切だと思っています。大げさに言えばそれがすべてかもしれません。私はできる限り俯瞰した視点からデザインの構想を組み立て、その構想を一貫してディテールまで反映することが大切だと考えています。言い換えれば、頭から指の先まで神経が通っているような感覚でしょうか。 このように神経を通すことで、その企業やブランドはいきいきとしたものになります。もちろんその効果は明確なので、クライアント側に理解いただけていると思いますし、プロジェクトが進行している中で、全体から部分へ一貫する意味を共有するようにしています。 これからはソフトウェアの支援によって、ある程度のものは、デザイナーが関与しなくても自動生成されるようになるでしょう。だからこそ、デザイナーでしか制御できない圧倒的なディテールが重要になっていくと考えています。

 

学生が聞いた
「デザインを学ぶごと」

学生:もう少し具体的にデザインにおけるディティールを教えてください。

30センチメートルの友情
30センチメートルの友情

 

「30センチメートルの友情」の制作プロセス
「30センチメートルの友情」の制作プロセス

例えば、皆さんにお渡しした冊子は、殆どの文字と文字の間の距離を5/1000em単位で人の手で調整しています。それは読みやすさを高めると同時に、紙面や冊子全体、そして情報自体の品位を高める役割を担っています。このようにディテールだけの制御によって、特別派手なデザインを施さなくても、情報の精度を高め、的確に伝わるものになるのです。 

学生:ディティールを判断する力を身につけるために、
学生時代にどのような努力をされていましたか。

学生時代、先生やアルバイト先の建築事務所、伝統工芸士さんに、できるだけ良いものに触れることで、デザインの価値感を高いレベルに定めておくことが大事だと教わりました。そうしておかないと、デザインを計画したり制作したりするときに目標値がなく、学生の理解できる範囲で満足してしまうことになってしまうからです。 

 

 

学生からのインタビュー

また、学生時代に自分がデザインに携わる為のテーマを持つことが大切だと思います。自分の強みを確実に発揮していくには、テーマが絶対に必要です。最初は好きなものからでも構いません。仮でも良いので、自分が一番詳しい分野や上手にできることを、学生のうちに探すことからはじめてください。在学中に、そのテーマの尻尾でもつかんでいれば、就職活動も合理的にできますし、社会に出てからそのテーマを掘り下げながら仕事ができるようになると思います。もちろん2年や3年で、成果につながるものではなく、5年10年といった長いスパンで育てていかなければならない覚悟が必要です。

gk_6

大切なことは、キャリアが浅い状態の時にも、諦めずそのテーマを深め続けるか否かにかかっていることを理解しておいてください。ある年代になった時に「あなたのテーマでデザインしてください」という依頼があった場合、何もできないほど辛いことはないはずです。 特にこれからの時代は、いろいろな専門家と組まなければ解決できない問題が沢山あります。このような場合、中途半端な専門家は必要ありません。本当の専門家と組む為には、自分のプロフェッショナリティ(テーマ)を自覚して深めている人でなければ、相乗効果を得るような関係を築くことはできません。

学生:自分のデザインのテーマを探求し続ける姿勢に感銘を受けました。
では、そのテーマを学生時代に見つけ出すためには、どのようにすればよいと思いますか。

gk_8まずは自分と社会、つまりデザインとの接点を見つけることです。私の場合、学生の立場では、社会の状況が解らなかったので、実践的なデザインのことが理解できませんでした。ですから大学では、非常勤講師の先生から仕事の話を聞くことが大切だったと思います。その中から、自分の価値観に近いことや興味の対象を探していたと思います。そういう意味では、理想となる社会人を見つけることが近道なのかも知れませんね。私にとっては、学生時代に、いい仕事をされている建築家や伝統工芸の職人さんの仕事に触れる機会があったことが大きかったと思います。ともかく自分のテーマを探す為に、学校だけに留まらず、自らが行動し、様々な人に出会い、視野を拡げて、自分だけの経験を重ねることからはじめては如何でしょうか。

 

かわらないデザインと
これからのデザイン
そしてデザイン教育に求められること

例えば、スマートフォンや携帯にカメラが搭載されているにも関わらず、より美しく撮影可能な、高級なデジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラの出荷数が伸び続けています。こういった状況は、ある意味で万人がデザイナーになろうとしている現象と捉えることができるかもしれません。では、これからの時代にデザインを専門としているデザイナーは、どのように立ち振る舞えばよいのでしょうか。

インタビューの様子

人々が美しいものを生み出そうとすることや、それを共有したいという想いは本能に近い行為だと思います。したがって、この現象はさらに加速していくでしょうし、ネットワークとソフトウェアの発達によって自動的に「美の形成」をサポートしてくれる時代になると思います。だからこそ、ロボットの社会進出でも議論されているように、人間でなければできないこと、考えられないことを、もっと真面目に突き詰めていかなければなりません。そしてこれからのデザイナーは、造形力の問題だけではなく、様々な条件下で物事を判断し、組み立て、意味の構築ができる「人間としての創造力」も求められるように思います。

木村さんは大学でデザインの授業を持たれておりますので、大学の変革というものを肌で感じられていると思います。少子化やグローバリズムの問題、さらに高校の美術教育の問題から、デザイナーに求められる能力の変化など、デザイン教育は多くの課題を抱え、変革の時期にさしかかっていると私は感じています。木村さんは、これからのデザイン教育にどのようなことを期待したいですか。

インタビューに答える木村氏デザイン教育に言葉や語彙を深めるカリキュラムが必要だと思います。先ほどお話ししたように、これからは人間だからできることの価値が重要になります。その骨格となるものが言葉だと思います。言葉を知らないと思考や発想できませんし、他者と深く対話し共創することができません。まずは本を読むことからでもかまわないので、デザイナーとして言葉を身につける方法(造形者としての言葉の扱い方)を考えなければならないと思っています。 そして具体的には、枠組みのないところから、言葉を用いて意味を立ち上げる(ゼロの状態から物事を考えて構築していく)訓練を行うことが大切だと考えています。私はそれを「文脈形成力」という言い方をしていますが、そこにこそデザイン教育の中核があるように思っています。私は、京都精華大学や武蔵野美術大学で、言葉と密接するタイポグラフィを通じて、これからの基礎体力を養う方法を試みてきました。富田先生とは、もう少しこのあたりについて意見交換を深めたいと思っています。

 

gk_2長時間にわたり、誠にありがとうございました。

聞き手:富田 誠 
学生インタビュー:奥山、小寺、鈴木、山本、森
撮影:富田

 


イベントのご案内

gk_setagayaGKデザイングループの創業者である榮久庵 憲司氏とGKが展開してきたデザインの世界像を紹介する展覧会「榮久庵憲司とGKの世界」が、世田谷美術館で開催されます。

開催期間:2013年07月06日(土)~2013年09月01日(日)
休館日:毎週月曜日(休日の場合は翌日)
時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
会場:世田谷美術館 〒157-0075 世田谷区砧公園1-2
詳細URL世田谷美術館公式サイト

デザインの今とは

「デザイン」という言葉の職能的なイメージは徐々に解体され、人々の生産活動と生活世界になくてはならないものとなっています。そして、デザイナーも、デザインをおこなう対象も、デザインのやり方も、変容し続けています。

「デザインのイマ」は、さまざまな領域に生まれ始めている新しいデザインやデザインのプロセスを様々な人にインタビューし明らかにします。

このサイトについて

目の前にある一本のペン、コンピューター、窓の外に見える街灯、電柱に貼付けられたポスター。人は「誰かのデザイン」に常にに囲まれて生活しています。これらは一体、どのようなデザインのプロセスを経て、どのような人によって生み出されたのでしょうか。

このウェブマガジンは、様々なフィールドで活躍する「デザインに関わるひと」へのインタビューを通して、デザインが生み出されるまでのプロセスを明らかにするインタビューサイトです。

インタビューおよびこのサイトを運営するのは、東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程の富田ゼミのメンバーおよび、ゼミナールを担当する専任講師の富田 誠です。大学の教室や工房の中だけでは知り得ない、「デザインの今」を学生と共に追っていきます。学生には、このウェブマガジンを現場の声の受信装置として「どうデザインするべきか」そして「何をデザインするべきか」を考察するきっかけになることを期待しています。

 また、私にとっても、デザインの研究や教育に携わる者として、変容し続けるデザインと、そこに生まれる問題点を発見し、解決の手法を探求し続けたいと思っています。さらに、このサイトが課題の共有や情報交換をおこなうためのプラットフォームとして機能するように発展させていきたいと思います。

 

メディア情報

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